平成27年7月1日以後に出国する方について、出国税が創設されました。
同族会社やベンチャー企業オーナーの自社株売却に伴う譲渡益は、現行の所得税法においても、日本国内においてある程度課税が行われていると言えます。しかし、上場株式などで資産運用をしている投資家については、個別銘柄を25%以上保有するというような特殊関係株主であることは一般的ではないので、これらの投資家の方が日本から出国して日本非居住者となった後の株式譲渡益には、日本においては課税がされないことになります。それらの投資家対策として導入されたものです。
この制度は、個人富裕層が日本を出国して非居住者となる際に、株式などを決済したこととして、保有する株式などの含み益に課税するというもので、未実現のキャピタルゲインに対して課税するものです。なお、この制度は日本独自のものではなく、アメリカ、ドイツ、フランス、カナダ、イギリスなどで既に導入されています。
有価証券等または未決済デリバティブ取引等に係る金額の合計額が1億円以上である者で、出国の日前10年以内に居住者である期間の合計が5年超である者が対象とされます。
所得税法に規定する有価証券もしくは匿名組合契約の出資持分または未決済デリバティブ取引等を有する場合には、出国時に、当該有価証券等の譲渡または当該未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして、事業所得の金額、譲渡所得の金額または雑所得の金額を計算することとなります。
通常、株式などの含み益については株式などを売却した者が居住している国に課税権があるとされています。この原則があるにもかかわらず、未実現のキャピタルゲインに課税しようとする意図は次のとおりです。
日本では、キャピタルゲインに現行で20.315%(復興特別所得税を含む)の税金がかかりますが、シンガポール、香港、スイス、マレーシアなどではキャピタルゲインが非課税のため、日本の富裕層が株式を保有したまま、これらのキャピタルゲイン非課税国に移住して日本における税負担を回避する節税スキームが生まれました。この対策として、出国税を創設して、日本における課税権を確保するとともに、武富士事件のような争いの再燃防止を図る効果も期待されています。今後、シンガポールや香港などのキャピタルゲイン非課税国を利用した節税スキームはやりづらくなりそうです。